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輝くひと  箏に魅せられて



佐野奈三江 
実践女子学園に在学中のクラブ活動で、お箏と出会った佐野奈三江さんは
昭和41年に高校を卒業された後、芸大邦楽科に進まれました。
現在は箏曲演奏家として演奏活動をなさいながら、宮城社大師範、
東京芸術大学講師として熱心に後進のご指導に当たられています。
  



私が「箏」という楽器と出会ったのは、実践に入学した中学一年生の時のことでし た。何のクラブに入ろ うかなと考えていた私に、「お箏のクラブはないの?」と聞いたのは、この春百歳で亡くなった母でした。「あるみたい」と言った私に「生田流で宮城道雄先生 の系統かどうか聞いてごらんなさい」という母の言葉に素直に従い、箏曲班生田流に入部しました。

専門家としてはとても遅いスタートだったのですが、以来、一度も止めようと思うこ ともなく、箏は生活の一部となってゆきました。
高三の夏、進路を決定するギリギリの頃になって、就職するという私に、また「芸大の邦楽科はどう?」という母の一言。「えっ、お 箏で行ける大学があるの!」と芸大の難しさも知らず、この時もすっかりその気になりスイッチが入っていました。

幸 い、部活の指導にいらしていた先生方も芸大の卒業生で相談に乗ってくださり、すんなり受験生の道を歩き出すことができました。一年浪人して合格。この頃 は、一日に何時間あっても時間が足りない程、弾くことが楽しくて楽しくて箏・三絃にあけくれる毎日でした。卒業後も学生時代の延長で、すべてが箏中心。
師 匠、先輩、友人と周囲の人にも恵まれ、振り返ればもう五十数年この道一筋でまいりました。



日頃は演奏会に出演したり、教えたりしておりますが、教育者であった祖父の影響で しょうか、私は教えることも大好きで、母校のクラブ、三十代からは邦楽科のある音大の講師も務め、現在は、芸大の講師としてプロを目指す人たちの指導に当 たっています。
平成12年から中学校の音楽カリキュラムに邦楽器の体験が必修となり、小・中学校で鑑賞・体験教室を開く機会も増えてきました。 子供たちは本当に真摯に、 まっすぐな目と心で聴いてくれます。一人でも多くの子供の記憶に残るようにと演奏しています。

母校実践でも中・高・大学とクラブ活動が長年続いていて嬉 しいのですが、大学の渋谷移転で部室の確保が問題となり、存続を憂慮しております。

箏は一面ずつ木目も違いますが、出てくる音色も違い、また弾く人によっても様々な音色を奏でます。日々の悲しかった事なども呑み 込んで、弾いている間は 全て忘れ、楽器さえあればなんでも乗り越えてこられました。
歳を重ねるに従い、さらにこの楽器の奥深さ、楽しさを感じております。皆さまにもいつか箏の音色をお聴きいただきたいと願ってお ります。
(さの なみえ)
 「なよたけ情報版18」(2012.10.1)掲載